アーティストという呼び方がある。芸術家である。この言葉がそんじょそこらの流行歌手に対しても用いられるようになって久しい。自分でアーチストと名乗って恥じるようすもない輩もウジャウジャである。もういかんともしがたい。そういえばむかしむかしそのむかし、松田聖子(54)や郷ひろみ(61)なんかのアイドルが「お仕事」「仕事」を連発して鼻白んだこともあった。ただの「歌手」や「ステージ」ではいけないのか。
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同様のいい換え、置き換えはふつうの会社のふつうの仕事でも頻繁に行われている。たとえばショップの店員が「アドバイザリースタッフ」であったり、コピーライターがわざわざ「セールスコピーライター」になったりする。思うに世のなかの多くの人々は自分の仕事をことさら難しそうにしたがる傾向があるのである。そう見せたがるだけではなくて、そう思いたがる。
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しかし歌手がアーティストになったところでその実体は変わらないように、店員が「アドバイザリースタッフ」になっても仕事の中身が変わるわけではない。なのにわざわざ七面倒くさいいいかた、考え方をしてそれに引きずられてしまい、かえって効率を損なっているのではと疑わしい場合すら多々ある。この傾向はとくに大企業や官公庁に多いような気がする。なかには仕事をしないためにわざとさも難しそうな名前をこねくり回している輩もいる。
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もとい。アーティストと呼べるほどクリエーチブ(by加藤茶)なお仕事をしている歌い手がどれほどいるというのか。いや、ほとんどいない。反語的表現である。恐縮である。いまやアーティストと聞いただけでコイツはダメだろうなと思う。
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アーティストという言葉にことさらイラッときてしまうのは、アート自体がほんとうにつまらないと最近またつくづく思うからである。「アート」など死語だという認識をまずもっていただきたいのである。
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小説、詩など言葉をもってするもの以外の芸術はすべからくぜーんぶ死んだのである。小説や詩もそれほど面白くもないけれども死なれてしまってはアタマのなかが真っ暗くらになりそうなので、かろうじて息だけはつかせておきたい。
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この半世紀、絵画でいえばアンディ・ウォーホル以降はフランシス・ベーコンのあまりに酷薄な人間観、彫刻やパフォーマンスでいえば伊瀬谷友介(40)が大好きなヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」以外になにか新しいコンセプトはあったのであろうか。いや、ない。恐縮である。いわゆるナイーヴ・アート、アウトサイダー・アートと呼ばれるものに価値を見いだそうとする姿勢はやはり逃避にしか見えない。
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逆につまらないオモチャにほころびだらけの「アート」の衣を着せることで一発当てようとする村上隆(54)のような人間もいる。オリジナルのアニメーション制作に6年もかけ、放送予定日(2016年12月30日・TOKYO MX)までに半分も完成させられなかったというダメ男である。村上隆の「アート」もまたすっかり時代においていきぼりを食らっているというこれ以上ない皮肉である。
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そんなこんなでいまや投資家と美術商の仮想通貨になり果てている「アート」を自らの肩書きとして押しいただいてなにがおもしろいのか? である。かくいう私はかつて暗黒舞踏のマネをしようとして全裸になったものの、寒さに激しく萎縮したチンチンとその子分に包帯を巻けず大失敗した男である。
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芸術、アートとは、行為する者とその受け手の考えや感覚を後押しするもののはずである。Wikipediaによれば「表現者あるいは表現物と、鑑賞者が相互に作用し合うことなどで、精神的・感覚的な変動を得ようとする活動。」である。
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果たしてそのような幸福な関係がこれからも成立しうるのであろうか? 残念ながらそれはもはや大昔のお話である。アートは死んで再び蘇ることはない。「表現者」と「鑑賞者」がそれぞれ別個にアートを感じ、主張することはできるけれども、相互に作用し合うことはほぼ不可能である。
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チンチンとその子分を包帯に包んで人前で踊ってももはやアートでもなんでもないけれども、自然のなかにいれば何かを感じられるはずだ、とそのときの私は踏んだのである。そしてそれは私にとってのアートではあるけれども、ほかの誰かから見ればただのバカチンである。
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それに、想像をはるかに超えてしまっている現実を生きる私たちは、遠い国からやってきた旅行者のように、キョロキョロとあたりを見回すだけで精も根も尽き果ててしまう。
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おお、そういえばRed Hot Chili Peppersがチンチンに白いルーズソックスのような長靴下だけをはいた姿でステージに出てきたことがあったけれども、あれは少しアート的、呪術的な気配があった。
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というようなことで、私にとってはもったいぶった現代の「アート」作品を眺めるよりも、ただ街をブーラブラしていたほうがよっぽどアートだと思うのである。なんだかよくわからないけれども、いいたいことはこれだけである。(了)
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