2017年1月16日月曜日

ドナルド・トランプのプロレスは終了。後片付けよろしく



ドナルド・トランプ次期大統領(70)が1月12日、当選後はじめての記者会見を開いた。約半年ぶりである。場所は例によってニューヨーク五番街の「トランプ・タワー」。で、壇上のドナルド・トランプの下手(向かって左側)のテーブルにたぶんA4サイズの茶封筒がうずたかく山をなして積まれていたのである。



それがドナルド・トランプ自身のビジネス「トランプ・オーガニゼーション」を2人の息子、つまりドン・ジュニア・トランプ(39)とエリック・トランプ(33)に託すためにサインした書類だと知らされたとき、ああ、完全決着がついてしまった、と思ったのである。まだ早いしどこかでビールでも飲んで帰ろう、の心境である。



この虚しさは「トランプ・オーガニゼーション」を息子に任せたところで「大統領職と企業の経営者」という「二足のわらじ」を履くことでの「利害相反問題」が解消されるわけではない、といういわばまっとうな失望からではない。最後、土壇場での見せどころであるはずの逆転技が出ないまま“プロレス選挙”が終わってしまったからだ。



あらかじめお断りしておこう。これまで選挙期間中にもドナルド・トランプの選挙活動をプロレスと比較して論じる人々は大勢いた。しかし私はやりかたが似ている、とかプロレスに学んだ、とかいうレベルではなくて、トランプがやっていることはプロレスそのものである、とといいたいのである。



ドナルド・トランプが敵と味方の関係をことさら際立たせて国内分断にも繋がりかねないスタンスをとったのも、個人攻撃、ゴシップにヅカヅカと踏み込んでいったのも、プロレスそのものだからである。プロレスに学んだ、というレベルならとうぜん現れるはずの手加減や躊躇がない。



で、土壇場の逆転技におおいに期待をしていた私は、それはローリング・クラッチ・ホールドみたいなヤツであろうと勝手に予測までしていたのである。頭から突進してくる相手の背中に間一髪、跳びつき、そのまま相手もろとも前方に1回転してスリーカウントを奪うプロレス技である。



これはさんざん痛めつけられてレロレロになった選手がよく使う手で、勝負には負けても試合には勝ったことにしてくれ、という馴れ合いプロレスの典型みたいな技である。トランプがやるとする場合の立場は逆で、トランプが選挙には勝ったけれども大統領職は譲ってやる、つまり頭から突っ込んできて逆に丸め込まれるほうの役になるはずであった。



誰がトランプを丸め込むのかは不明である。妄想するにたぶんリング外から疾風のごとく乱入してきた共和党からのニューカマーだ。それでもレフェリーはスリーカウントを数え、試合が終わってしまうのがアメリカンプロレスである。



なにをいっておるのか、と訝られますか。そうですか。しかし私は今回のアメリカ大統領選挙を、ずっとまるでプロレスだなあと思いながら観ていたのである。トランプの発言、やることなすこと振る舞いかた、WWEの「億万長者対決(Battle of the Billionaires Hair vs Hair)」(2007)のトランプを思い出させたからだ。そしていまはトランプのヤツ、プロレスをやったな、と思っている。



うむ。WWEとは「World Wrestling Entertainment」つまり前身のWWWF時代まで遡れば1963年からの歴史をもつ世界最大のプロレス団体である。創業者は現WWE会長ビンス・マクマホン(71)の父親、マクマホン・シニア(享年69)。ドナルド・トランプとはこの団体がWWEとなった1980年代の初頭から親密な関係を続けている。



親密な関係の例をひとつ上げれば、プロレス界最大の祭典といわれるWWEの「レッスルマニア」が1988年と1989年の2年続けてニュージャージー州アトランティックシティにあるドナルド所有のトランプ・プラザで開催されているのである。「レッスルマニア」が2年続けて同じ会場で開催されたのは去年(2016)までの33回のうち、このときだけだ。



しかも、2007年の「レッスルマニア23」、「億万長者対決(Battle of the Billionaires Hair vs Hair)」で、ドナルド・トランプはついにWWEのリングに上がったのである。対戦相手、もう一方の億万長者はWWE会長のビンス・マクマホン自身であった。もちろんジジイ2人で試合ができるわけもなく、互いにレスラーを立てての代理戦争である。結果トランプが勝ち、ビンス・マクマホンはリング上で丸坊主にされている。



くっだらなーい。けれどもこのときの「レッスルマニア23」は約8万人の観客を会場に集めているのである。さらに「WWE会長がリングの真ん中で丸坊主にされる様子は、記録的な視聴率を上げた。」(WWEホームページ)らしい。



そんなWWEホームページの「HALL OF FAME」ではドナルド・トランプ を1ページを割いて紹介している。そのごく一部を抜粋しよう。



《この億万長者は役員室でも四角いリングの中でも、常に攻撃的な姿勢を崩さない。自信に満ちた表情を漂わせ、数々のテレビ番組、人気トークショー、雑誌の表紙を賑わせるポップカルチャーのアイコン的存在でもある。


だが、この男の本性は「ユー・アー・ファイヤード!(お前はクビだ!)」を叫ぶことに至福の喜びを感じる、容赦ないボスとしての姿だろう。


—〈略〉—


アメリカで最も高名でカリスマ性を持つビジネスマン、ドナルド・J・トランプは、不動産業とリアリティショーの革命児として、その名を轟かせてきた。》



つまりドナルド・トランプをWWEに出ていた億万長者のトランプとして記憶しているアメリカ人はそうとう多いはずだと思うのである。そしてそんなことを考えながらトランプの選挙運動を眺めていると、演説はリング上での試合前のアオリとほとんど変わらない罵詈雑言、いいたい放題だし、それを聞きに集まっている聴衆は「億万長者対決」にエキサイトしていた観衆とほとんど同じに見えたのである。バカにしているわけではない。ないけれども、みなさんそうとうフラストレーションがたまっていたのだろうなあ、とは思った。



ちなみに「億万長者対決」にもちこむために、ドナルド・トランプはビンス・マクマホンの「ファン感謝祭」に突如登場し、会場の天井から何万ドルもの現金をファンの上にまき散らすという究極の荒技に出たらしい。それで主役の座を奪われたビンス・マクマホンが怒り狂い……、という筋書き。うむ。日本のIT成金のみなさまにもぜひ見倣っていただきたいものである。



ああ、もうひとつ。ドナルド・トランプは次期政権の中小企業庁長官にリンダ・マクマホンを抜擢すると発表している。2016年12月7日であった。このリンダ・マクマホン(68)は、なにを隠そうWWE会長ビンス・マクマホンの妻である。これはプロレス界への恩返しというよりも、プロレスファンをつなぎ止めておくための作戦であろう、と私は思う。



WWEでのリンダ・マクマホンについては『ロケットニュース24』(2017年12月8日配信)が要領よく解説している。抜粋してご紹介しよう。メンドくさいとおっしゃる方は飛ばしていただいてもかまわない。

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【〈WWE〉トランプ政権に抜擢された「リンダ・マクマホン」とはどんな人物なのか?】

《WWEはストーリーに沿って展開されるドラマ的要素が強いのだが、その中でのリンダ・マクマホン氏の立ち位置を説明したい。

リンダ氏の夫はWWEの最高経営責任者、ビンス・マクマホン氏だ。2人には息子(シェーン・46)と娘(ステファニー・40)がいて、4人がマクマホンファミリーとされている。同団体内に絶対的な権力をマクマホンファミリーは、重要なストーリーに必ず絡むキーパーソン的存在だ。

基本的には、夫も息子も娘も悪の限りを尽くすのだが(ただし、最後にお仕置きされる)リンダ氏だけは違う。基本的にはベビーフェイス(正義)サイドに立っており、どうしようもないマクマホンファミリーの中で「唯一の良心」とされることが多い。

一度だけヒール(悪役)転向のストーリーもあったが、いまいちパッとせずにそのストーリーは終了してしまった。少なくともWWEファンの中では「リンダ氏だけは信用できる」とされており、悪役が板につかなかったのかもしれない。

まとめると、WWEにおけるリンダ氏は「正義のためなら家族と対立することもいとわない、良識的な女性」というポジションである。》



禍い転じて福となす。ヒールに失敗しておいてよかった、と喜んでいることであろう。またドナルド・トランプがビンス・マクマホンではなくリンダ・マクマホンを抜擢したということはすなわち、プロレスファンの目線を強く意識していることの証しといってもいいであろう。マジで。



リンダ・マクマホンは2010年と2012年の上院議員選挙に出馬してともに落選しているけれども、これはWWEのテレビ番組のレーティングを低く設定させるためだといわれている。レーティング(rating)というのはこの場合「オトナ向け度合いの格付」という意味で、レーティングが低くなるとより低年齢層の視聴者にも見せられるようになるからだ。ガツガツしとるのう。



しかもリンダ・マクマホンが就く予定なのは中小企業庁長官であり、中小零細企業の経営者たちはトランプにとっての厚い支持層なのである。ちなみに全米自営業連盟(NFIB)が1月10日に発表した12月の中小企業楽観指数は、前月から7.4ポイント上昇して105.8と、2004年末以来の高水準に達している。



しかしヘラヘラ笑って観ていられるのはここまでである。ここまで、ドナルド・トランプは国中を観客にした「レッスルマニア」にうつつを抜かしていたのである。次々に行き当たりばったりの公約をぶっ放してその実現性を疑われても平気だったのは、それがプロレスだったからである。



しかしいうまでもなく選挙というショー、プロレスは終わったのである。リングは解体され観客はみな帰途についた。その観客に向かっての政治家・トランプの第一声が1月12日の記者会見であった。ところがドナルド・トランプは演じていたはずの、WWEの、プロレスのトランプから一歩も踏み出していなかったのである。うっかりCNNの記者と小競り合いを演じて、CNNとは犬猿の仲のはずのFOXからも痛烈に批判される始末である。



ドナルド・トランプはプロレスというショーを演じることはできるけれども政治はできない、ということが明白になってしまった。プロレス止まり。その“プロレスのトランプ”の象徴が、壇上にうずたかく山をなして積まれていた茶封筒である。事実があるのならその証拠を記者会見の席にわざわざ持ってこなくてもいいのに。あんな茶封筒になんの意味があるというのであろう? 怪奇派レスラー、アンダー・テイカーがリングまでズルズルと引きずってきた棺桶と同じではないか。



それにそもそも自身のビジネス「トランプ・オーガニゼーション」を第三者に売却するのではなく、息子2人、つまりドン・ジュニア・トランプ氏とエリック・トランプ氏に託すということが「利害相反問題」の解決にどれほど効果があるのか? という話である。



トランプは大統領職に在職中、「トランプ・オーガニゼーション」は「外国との間には新しいビジネス上の契約は結ばない」し、「国外における企業活動が生んだ利益は国庫に寄付する」としてはいる。しかしその一方でアメリカ国内では相変わらず新しい契約はどんどんすすめる、つまり稼ぐといっているのである。



「利害相反問題」といえばなんとなく穏便に聞こえるけれども、これははっきりと「『トランプ・オーガニゼーション』に利益を誘導しますよ」と宣言しているようなものではないか。ぜんぜんダメである。まるでプロレスのヒールのやり口である。まあ、これはそのうち、あーあ楽しいプロレスは終わっちゃったんだ、と気付いたアメリカのファンのみなさまがなんとかしてくれるであろう。



プロレスの客は世界で最も無責任な観客であるといわれる。「なにやってんだよ。あんなのぜんぜん効くわけねーだろ」、「おお、これは痛い」、「ヤバいくらいくらい効いてんじゃん」、「病院送りだーっ」って、実際にやってる身にもなってみろ、である。しかし観客は日頃の鬱憤ばらしにきているのであるから、これが正しい観戦態度でもある。トランプの支持者って大方そんなものだったのである。と、私は思う。



トランプが選挙に勝ち、アメリカは名実ともに立派なプロレス大国になった。しかし仮に中国との関係が非常にマズくなったとしても謎の中国人フー・マンチューをリング上で叩きのめして溜飲を下げるだけではモノゴトは納まらないのである。あのイラク戦争のときにはアイアン・シークがその役を買って出ていた。繰り返すけれどもアメリカのみなさん、ぜひ頑張っていただきたいのである。



もちろん我らが日本もみなさんの同盟国として協力を惜しまないのである。強力な助っ人を送り込んで差し上げたいと思うのである。われらが闘魂、アントニオ猪木である。WWEの八百長プロレスとははっきりと一線を画するガチなプロレス、新日本プロレスの創設者であり長く絶対的スターであったアゴ男である。ガチなプロレス、微妙だけれどもまあいいではないか。



そんなに遠くないある日、必ずアントニオ猪木は「レッスルマニア」に登場するのである。帯同するパートナーは金正恩(33)である。核を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を背負っている。せっかくの大陸間弾道ミサイルなのになぜかわざわざアメリカまで担いでいく。



「ビンス!! テメエ、貴様、この野郎!!」
「トランプ!! テメエ、貴様、この野郎!! 出てこい!!」



である。……ああ、これではプロレスに逆戻りか。ううむ。もとい。急な話でたいへん恐縮ではあるけれども、これから私はドナルド・トランプ大統領を応援するほうに回ろうと思う。他国の大統領を応援するのは、そーさなー、ああ、人喰い大統領、ウガンダのイディ・アミン(享年78)以来である。ええど、えーど。プロレス大統領、ドナルド・トランプ!! 無責任ですまぬ。(了)







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