2016年7月20日水曜日

背筋が凍るのか? 笑ってしまうのか? 微妙な女のお話



怪談話の季節です。澤穂稀(37)が妊娠したとかいうことではありません。お化けとか祟りとかのお話です。私もいくつか知っているお話があるのでご紹介しましょう。最初はほんとうにあった話です。



私の知り合いの知り合いの女、ふつうの30代の家庭の主婦ですけれども、スピ系というのでしょうか、神さま仏さま、気とかオーラとか、そういうものがなんでも好きで、まあ好きっていっちゃあ申しわけないんでしょうけれども(by 稲川淳二)、とにかくいつでもそういうことを気にかけ、また口にもしていたそうです。



初夏の午後、そのスピ系の彼女が公園の前の横断歩道で信号待ちをしているところに、ちょうど知り合いが出くわしたのだそうです。信号が青に変わり、こちら側から私の知り合いが渡りはじめたのに、道路の向こう側のスピ系の彼女はまったく動こうとしません。信号機の横にただじっと地蔵のように突っ立ったままです。



で、ヘンだなーどーしたんだろーなー、と思いながらも知り合いがどんどん横断歩道を渡って近づいていくと、やたら丈の高い、黒い帽子のようなものを被っているのがわかったそうです。で、知り合いがこちらから手を振って挨拶をしてもスピ系の彼女は微動だにしません。おかしーなー、失礼なヤツだなー、と思いながらさらに近づくと、なんとスピ系の女の頭の上には


大カラスがとまっていた!!


というのです。知り合いがそばまでくるとようやくカラスは飛び去り、女は「重かったのー」といって涙ぐんだそうです。スピ系なのに。いつも頭上にカラスを舞わせている鬼太郎よりも不吉です。



スピ系の女、それでも性懲りもなくお祓いだの浄霊だのにうつつを抜かしていたそうです。で、そのおかげといえばいえるのか夫はトントン拍子に出世をしていて、30代の若さで新築一戸建てを購入したそうです。



しかし。新居に入ってから1ヵ月もするうちに、スピ系の女はみるみる元気を失いゲンナリして、ふさぎ込むようになったといいます。知り合いは、これはチャンス!! とお見舞いを口実に新居を拝見しにいったそうです。小さいけれども可愛い、お洒落な家だったそうです。



新居に引っ越ししてからはじめて訪れた客なのですから、ふつうは家のなかを少し案内したりなどしてくれそうなものですが、スピ系の女はリビングのソファに座ったまま動こうとしません。好奇心丸出しにするのもイヤだし、話は弾まないしでもう帰ろうかなー、と思いはじめたとき、スピ系の女はこういったそうです。


「2階でラップ音がするのー」


知り合いがいうには、そんなヘンな、気持ち悪い雰囲気なんて全然なかったし、場所も明るくてよかったよー、ということでした。新築だから建て付けがなじむまで、いろいろきしんだりするんじゃないのー、それをアイツ、スピ系だからさー、なのでした。



しかし。スピ系の女にとってこれは深刻な問題で、なんと、それから1ヵ月も経たないうちに、今度は新築のマンションに引っ越ししたのです。前の家を売りに出したらすぐ次の日に売れちゃったんだってさー、やっぱりいい家だったんだよ、と知り合いは少々、毒づいていました。



で、それから約1週間後、そろそろ引っ越しのあと片付けも終わったころだろうか、と思っていたときに、そのスピ系の女から電話がきたそうです。低く暗い、まるで地獄からのような声だったそうです。これはまたなにかあったに違いないと直感した知り合いがどこかで会おうか、と誘うと、スピ系の女は電話口で急に泣き出したのだそうです。


「きのう隣の女の人がベランダから飛び降りたのー」


あとでわかったところによると、隣のたぶん40代の奥さんが夫婦喧嘩の最中に衝動的にベランダからダイブしたらしい、ということでした。そのフロアは4階でしたが、打ちどころが悪かったらしく即死でした。



スピ系の女ご夫妻は恐慌をきたし、あわてふためいてそのマンションを引き払って、いまは賃貸マンション暮らしをしています。ちょうどご主人が単身赴任をしたこともあって、以来、妻のスピ系への傾斜はますます激しくなり、なにかよくわけのわからない新興宗教の道場と気の教室と自己啓発セミナーみたいなものに通い、そのうえ時間が空いたときには写経にも励んでいるそうです。



スピ系の女にしてみれば、自分が頑張ってここまでやっているからこの程度の悪運、悪因縁ですんでいる、らしいのです。ふむ。私としては、毎月それだけの月謝なり寄付なりをする金があれば、もう少し明るく陽気に生きられるのに、と思います。偶発的な出来事を関連づけて解釈してもロクなことにはなりません。



私の知り合いは、頭に大カラスをとめるくらいだからアイツそのものが疫病神なんだよー、とニタニタしています。恐ろしいヤツです。



いろいろ想像を逞しくしていただければ、少しは怖くなっていただけるかと思いますが、いかがでございましたでしょ(by 稲川淳二)。



怖い話にもいろいろあります。むかしからある怪談話は、さすがに物語がしっかりしていて、よく練られています。不思議なのは因果関係が描かれ、つまりその部分では合理的な説明があり、さらに祟られる主人公に感情移入できるわけでもないのに怖いことです。



たとえば四谷怪談です。お岩さんは惨殺された恨みを晴らすために化けて出てくるわけですから、そのお岩さんなりの都合といいますか事情ははっきりしています。伊右衛門はやられてあたりまえ。自分の女房を狼藉三昧の果てに斬り殺したのですから、ざまあみろ、です。でも怖い。



ああ、むかしの怪談話は怪異譚であって、主人公に感情移入するようになると、ホラーになる、という感じでしょうか。



とかなんとかいいつつ、私が好きなのは非合理的なお話です。ツジツマがどうのこうのはまったく関係なく、ただ怖いというもの。これの先駆者はふだん稲川淳二(68)だと思います。



ある日、浜辺に土左衛門(水死体)が上がったというので見にいったら、青いビニールシートの下に横たわっているはずのその遺体が、やけに長い。おかしいなと思って人の目を盗んでそーっとシートをめくってみると、遺体の両脚にもう一人の遺体がしがみついていた、とかいうお話ですね。つまり1人がもう1人を引きずり込んだ、と。現実にあるはずもないのに怖いです。



もっと怖いのがあったはずですけれども、思い出せません。申しわけのないことです。ちなみに、むかし腐敗がすすんで膨れ上がった水死体を見て、まるで色白デブで有名な成瀬川土左衛門みたいだ、と悪態をついたところから「土左衛門」という呼び方が定着したそうです。いまなら恵美子、ですね。上沼恵美子(61)。キョンシーの水死体。怖いです。



中学時代、体が小さくていつも教室のいちばん前に座らされていた男がいて、ある日の2時限目、またいつもの通り先生がやってきて授業がはじまったのですけれども、教室の中がちっとも落ち着かない。先生も注意をしようとしない。ずうっとザワザワザワザワしている。おかしいなー、と思って後ろを振り返ると、クラスメイト全員が自分の顔にカッターでザクザク切れ目を入れていた。というのはどうでしょう。



だめですかー。ただ痛いのと怖いというのとは違う? ではこういうのもあります。街を歩いていて何気なく空を見上げたところ、すぐそこの4、5階建てのビルの屋上のヘリに、ずらっとなにか大小の飾りのようなものがぶら下がっている。よく見るとそれは全部、ヘリにつかまった人間の手首だった。



どうでしょう。最近はこういう短いのがもてはやされているようです。では、もっともっと短いヤツ。


空一面が顔。


あいつのDNAが混じっていないか、私のウンコを検査してください。


(了)



0 件のコメント:

コメントを投稿