もしこの時代の日本にも思潮というものがあるとして、それはなにによって導かれ、どこへ向かっているのだろうか? と、ときどき考えることがある。まだまだ若いのである。いやただヒマだからか。
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世の中や時代は決して一様ではなくさまざまな色をした薄い雲母の結晶が無数に重なり合っているようなものだ。いまとりあえず持ち出してしまった「思潮」もそのなかのごくごく小さなわずか1枚の欠片にすぎない。
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そのわずかな欠片は私の記憶と皮膚感覚によってつくられ、壊れ、またつくられる。もちろんきわめて私的で普遍性を担保するものなどなにもないけれども、ふと時代の潮流にふれていると実感することはある。
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そんな状態のときには物事のなりゆきがよく見通せる。知り合いのなかには競馬が当たるようになるという者もいる。いわく、街の風に当たらなければレースは読めない。欲に眼が眩んだギャンブル好きの直感であるからこれは話半分に聞いておいたほうがいいかもしれない。しかし実際にそういう感じはある。
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で、最近、そんな時代の潮流のつくられ方を改めて思わせる記事に出会ったのでご紹介したい。『スポーツ報知』2017年5月14日配信分からである。
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【茂木健一郎氏「お笑いオワコン発言」を反省「僕が妙な正義感ふりかざす面倒くさいヤツだった」】
《脳科学者の茂木健一郎氏(54)が14日放送のテレビ朝日系「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(日曜・後9時58分)に出演。「日本のお笑いは終わってる発言で大炎上しちゃった先生」として、登壇した。
茂木氏は今年3月、ツイッターで「日本のお笑い界は本当に終わっている」と発言。多くの批判を受けたが、番組冒頭に「僕が妙な正義感を振りかざす面倒くさいヤツだった」と反省。生徒役の「オードリー」若林正恭(38)から「反省しているんだ?」と聞かれると、「そうです」と即答。「言い方とか多様性とか。アメリカにはアメリカのお笑いの文化。日本には日本のお笑いの文化があるということ」と振り返った。
茂木氏は学者らしく「しくじり研究論文 オワコン騒動の真相」と題した論文を事前に用意し、学者らしく自らのしくじりについての研究発表を披露した。「僕は後先考えずに発言してしまった。僕はツイートする時、ほとんど1分も考えていない。そもそも僕のツイートなんか、そんなに見ていないと思っていました」など、いきなりツイートしてしまったことを反省。今回の体験から学んだ炎上を防ぐ方法を解くほか、人間はなぜ批判に走り、炎上を引き起こしてしまうのか、そのメカニズムも徹底解析した。しかしスタジオの若林、「平成ノブシコブシ」吉村崇(36)、「銀シャリ」橋本直(36)、前宮崎県知事の東国原英夫氏(59)らお笑い関係者からは、批判の言葉が次々と噴出した。
「みんな、そんなに茂木さんのこと、気にしてない」(若林)、「僕の中では、隣の人がカレーを注文しているくらいの(どうでもいい)感覚」(橋本)、「この人、大丈夫かな? 本業にも影響するような発言じゃないかなと思ってました」(東氏)と散々。
モデルの泉里香(28)からも「頭の中で考えてから(ツイッターなどで)発言しますよね」と、バッサリ切られていた。
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なんのことかと思ったらたいへんくーだらなくて申しわけない。しかし私はこれでいまの時代の潮流、というかひとつの潮目のつくられ方がわかったような気になったのである。こういうくだらないことでしか考えられないので。
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2014年に当時Googleの会長であったエリック・シュミットと ジャレッド・コーエンによる『第五の権力 ― Googleには見えている未来』という本が出版されて話題になった。
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エリック・シュミットはこの本のなかで、国は司法、立法、行政の「三権」プラス「第四の権力」と呼ばれる報道によって統治されているけれども、近い将来、SNSとネットで繋がった大衆による「第五の権力」が誕生するだろう、というようなことを書いている。2025年には世界人口80億人のほとんどがオンラインで繋がるようになるのだそうだ。ほんとうか?
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「第五の権力」は、日本ではいまのところ大筋「ネット世論」という控えめな名前で呼ばれていてその影響力は拡大し続けている。で、司法、立法、行政の「三権」、そして「第四の権力」と呼ばれる報道には最終的な責任者、管理者がいるけれども「第五の権力」にはそれがない。てんでんバラバラな個人の集まりである。
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どうしてそこに一定の方向への動きが生まれ、潮目ができるのか? 暴走したらどうなるのか? 少なくとも潮目を読むのはますます難しくなっている。
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はい。そこで無数の個人によって形づくられる「第五の権力」を海のようなものだとイメージするわけである。よく見るとそこには「ネット世論」のほかに旧来からの「世論」があり「テレビ世論」もある。そしてこの3つの流れがときどきぶつかりあったりしている。
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全体として「第五の権力」はまだ実体が明瞭ではないので蜃気楼の海のようなものといったほうがいいかもしれない。そんなふうにイメージしながら自分はその蜃気楼の海の岸辺に立って今日は凪いでいるとか荒れそうだとか、風がきつくなる、とか思う。
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そこで海のようすを読むのに手がかりになるのがそんな蜃気楼の海でサーフィンに興じる者たちだ。まあ、大袈裟にいえば世論サーフィン。そう、いまここでいえば『しくじり先生 俺みたいになるな!!』の出演者たちである。すぐにみな海中に落ちるけれども、それをなりわいにマスコミで頑張っている。
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『しくじり先生 俺みたいになるな!!』では、「第五の権力」を怖れて惨たらしいほどの恭順の姿勢を見せ、へっぴり腰になった茂木健一郎(54)はすで落水していて、自分は「ネット世論」の波を捕まえていると思っているその他の出演者がここぞとばかりその茂木健一郎をまさに水に落ちた犬のようにビシバシと叩いていた。
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茂木健一郎は「日本のお笑いはオワコン」とした自分の主張がなぜ「第五の権力」に受け容れられなかったのか、「日本のお笑いはオワコン」説は論理的に間違っていたのか正しかったのか、を分析し報告すべきであったのに、一般的な批判の心理や炎上のメカニズムのほうに軸足を置いて逃げてしまった。
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となってくると「本業を批判されると黙っているわけにはいかない」(by 松本人志「ワイドナショー」2017年3月26日放送)お笑い芸人たちは論理的に反駁する必要がないのでラクなものである。若林正恭、吉村崇、橋本直、東国原英夫、に泉里香まで加わっていいたい放題、からかい放題である。あ、 東国原英夫はお笑い芸人ではないのか。
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うむ。いっておいたほうがいいか。「本業を批判されると黙っているわけにはいかない」? なにをいっておるのか。たとえば塗りムラばかりのペンキ職人がやり直せといわれて「本業を批判されると黙っているわけにはいかない」といい返すであろうか? それなら政治家は1年365日「黙っているわけにはいかない」と喚き続けていなければならないではないか。バカなのか?
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そう、まだ未熟な「第五の権力」はこうした世論サーファーのふるまいに動かされているのである。そしていまもっとも目立っている世論サーファーは松本人志(53)を筆頭とするお笑い芸人なのである。お笑い芸人がダメといっているのではなくて、バカなお笑い芸人がダメなのである。
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「第五の権力」を怖れてノコノコと「ワイドナショー」や「しくじり先生 俺みたいになるな!!」に出てきた茂木健一郎は、まるでソビエト連邦崩壊後にマクドナルドの総会にゲストとして招かれたミハイル・ゴルバチョフ(86)みたいだ。アカデミックな世界からの論客に対する「第五の権力」の勝利の宴に敗残者の首、晒しものとして花を飾ったのである。
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クドいようだけれどもそれを司ったのが松本人志をはじめとするお笑い芸人たちである。お笑い芸人たちはそれが自分たちの勝利だと思い込んでいるかもしれないけれども、勝利したのは未熟で蜃気楼のような「第五の権力」である。茂木健一郎は戦ってさえいない。戦う前から白旗を上げて平伏してしまっている。
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もうお気づきであろうけれども「第五の権力」とはいうものの、いまだテレビという旧メディアにリードされている、いってみれば「第四・五の権力」みたいなものである。松本人志などは「第五の権力」がぶら下げている「第四の権力」の小さな尻尾みたいなものだ。「第四の権力」にとって「第五の権力」は鬼っ子であり、やがて自分の重要な一部を肩替わりするものである。
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タブーだらけで、体制を補完することに汲々としている「第四の権力」は、もはや十分に機能していないし、一方「第五の権力」もまだ十分に成熟していない。世論サーファーはその潮の淀みで「本業を批判されると黙っているわけにはいかない」というようなバカな言説を垂れ流して生きている。
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そしてそんなこんなをしているうち、淀んだ海の下ではプレート同士が軋み、強大なエネルギーが蓄えられる。でもってある日、未熟で蜃気楼だったはずの「第五の権力」が突然巨大な大津波となって立ち上がり、なにもかもを木っ端微塵に破壊してしまう。そうなってから、あのときあんなバカのいうことを聞いて暇つぶしをしていなければ、と後悔してももう遅い。
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ダラダラと日々を過ごすヒマな私の潮目読みは必ずカタストロフに終わるのである。(了)
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